
ピアスを入れて数年後のある日、彼女は突然現れた。しかし、再会のはずなのに、同じ人とは思えなかった。ロングヘアで耳を隠し、悲しみに沈んでいたのだ。「どうしたの?」と尋ねながら、私はショートヘアで明るく笑っていた少女の姿を呼び覚まそうとしていた。
彼女は意を決したように耳を出し、「先生、助けて」と言った。私は目に飛び込んできたその耳に、心の中で「あっ!」と叫んでいた。ケロイドだ。彼女は「ごめんね、先生、せっかくピアス入れてくれたのに、こんなになっちゃった。」と言った。神様はなんて意地悪なんだろう。サティロスの耳を与え、その試練を克服した少女に、さらにケロイドの試練を与えるなんて。
人間にできることには限界がある。その先は「神の内」として手を出さないことを早々と決め込んだ私。ましてやヘタレの“木匙”である私。しかし、負けるわけにはいかない。この匙は投げられない。なぜなら、この試練は私に対するものだからだ。折れるな木匙。「きっと治してあげる。」私はそう言うと、持てる力のすべてを注いで手術に臨んだ…。
ケロイドの術後、数年が経過したある日、ショートヘアの彼女が来訪した。耳は完全には元通りにならなかった。表にそれなりに目立つZ型の傷痕が残ったのだ。でも、その傷痕を指さし、「えっへっへ。このZの印、カッコイイね。」と笑ってくれる少女がそこにいた。私は嬉しさで、柄にもなく…目をぬぐった。(maha28510101002538)
