眼瞼下垂眼瞼下垂症(信州大学松尾式)専門医
片側の腱膜性眼瞼下垂症
【解説】右眼が腱膜性眼瞼下垂症で左眼が正常です。写真では右眉毛挙上,右上眼瞼陥凹,右三白眼,右眼瞼下垂が見られます。このように片側例では反対側の健常な状態と比較できるので,右眼が病気であることが誰にでもすぐ認識できます。腱膜性眼瞼下垂症は眼瞼挙筋の腱膜が瞼板からはずれてしまうことで発症します。踵で言えば ちょうどアキレス腱断裂のようなものです。腱膜がはずれてしまうと,瞼をきれいに折りたたむことができなくなります。それはまるでオープンカーの屋根がうまく格納できなくなった状態のようです。こうなると足りない視界を確保しようとする神経反射が脳内で起きて,交感神経を緊張させてミュラー筋を収縮させたり,本来は上を見る時しか使わない前頭筋を常に収縮させるようになるため,自律神経失調症や緊張性頭痛が発症すると考えられます。写真は術前と術後を交互に表示しています。
※三白眼…黒目の内側と下側,外側の三箇所で白目が見える白目がちな目。
両側の腱膜性眼瞼下垂症
【解説】片側例ではすぐにわかる腱膜性眼瞼下垂症が,両側でゆっくり進行すると正常な状態との比較ができないので病気であることがなかなか認識されず,眼が開けにくい状態をがまんしている人は多いように思われます。しかし,それでは両側のアキレス腱断裂で歩きにくいのを放置しているようなものです。まぶたが重く,おでこの周辺がスッキリせず,眠たそうな目で,頭痛や肩凝り,自律神経失調症状があれば,眼瞼下垂症を疑ってみる必要があります。
一重瞼に発症した腱膜性眼瞼下垂症
【解説】まぶたの分厚い一重瞼の人に下垂が起こった場合は,病気と認識されるのはさらに困難です。元々目が細い上に,上眼瞼陥凹が目立たないからです。しかし,眼瞼下垂症を「正面視で瞼が瞳孔にかぶさっているもの」と定義すると,むしろこのケースの方が多く当てはまります。眼瞼下垂症では,はずれた腱膜や弛緩した皮膚を引き上げようとして,眼瞼挙筋,ミュラー筋,前頭筋などが正常より強く収縮していますが,それらの収縮の影響が外眼筋(眼球を動かす筋)全体に及んで 眼球そのものが眼窩の奥へ引き上げられ,黒目の水平位置が上昇してしまいます。さらに上眼瞼が上がりにくい分,下眼瞼を引き下げて目を開けようとするので,結果として黒目の下縁と下眼瞼の間に白目が見える三白眼になります。したがって,一重瞼の人でも下眼瞼に注目し,三白眼であれば,眼瞼下垂症を疑う一つの手がかりとなります。
※このページの症例写真は全て「感性擬人化エージェントのための顔情報処理システム」 「FaceTool」を用いて平均化した画像です。
腱膜性眼瞼下垂症の病態について
瞼には眼瞼挙筋という筋肉と,腱膜というスジと,瞼板があって,それらが一体となってつながっていて,眼瞼挙筋が収縮すれば,腱膜を力が伝わって瞼を引き上げるというのが,本来の正常な開瞼メカニズムです。ところが,何らかの原因でスジが瞼(板)からはずれてしまうと,挙筋が収縮してもそれだけでは充分に瞼を開けることができなくなってしまうため,その不足分を補おうと,周囲の補助的な手段を動員して,瞼を引き上げようとします。
その補助手段の一つが,前額にシワを寄せて眉毛を上げて瞼の皮膚を引き上げる方法です。これを仮に外側補助系と呼びます。この外側補助系は主に前頭筋,後頭筋,僧帽筋などの骨格筋が担っており,開瞼を補助するにあたって,眉毛を上げる以外にも,顎を突き出して首を後ろへ反らして,下目使いで前を見るなどがあります。この外側補助系の酷使は,やがて筋緊張性頭痛や首や肩の凝りなどを引き起こしてくると考えられます。
もう一つの方法は,腱膜の内側についているミュラー筋という特殊な平滑筋を収縮させて瞼板を引き上げる方法です。この補助手段を仮に内側補助系と呼ぶことにします。このミュラー筋の本来の役割は,まだ完全には解明されていませんが,眼瞼挙筋の緊張度などを感知するセンサーとして働いているとみられます。腱膜性眼瞼下垂症になると,このミュラー筋を収縮させて瞼板を引き上げるという,本来とは違う“力仕事”に使うようになります。
ところで,ミュラー筋は,自律神経という,意志とは無関係に内臓や体調を自動的に調整する神経に支配されています。自律神経には交感神経という,昼間に動物が獲物を捕るような状況で作動する戦闘モードの神経と,副交感神経という,夜に眠っている間に身体の疲れを癒したりする休憩モードの神経があるのですが,ミュラー筋は交感神経によって収縮するので,腱膜性眼瞼下垂症の人は,知らぬ間に身体を戦闘モードにして眼を開けるようになります。このようにふだんから,瞼を開けているだけで,交感神経が緊張した状態が続くと,やがて心臓がドキドキする,口が渇く,手足の末梢が冷える,便秘するなどの身体症状が表れてきても不思議ではありません。
さらに,ミュラー筋から脳の中心部へ送られる知覚は固有知覚と呼ばれ,それが覚醒刺激として,青斑核という睡眠や覚醒,意識のレベル,情動などと深く関与している部分を刺激しているのですが,眼瞼下垂症になって,その刺激が過剰になると,不安,緊張,警戒心が高まり,やがて睡眠障害や,不安症,緊張症などの精神症状を引き起こしてくると考えられます。
このように,瞼のスジがはずれるという純粋に身体的損傷が,一見それとは無関係に思える自律神経失調症や,ましてや精神症状まで引き起こしてくる可能性があることがわかってきました。多くの人を悩ませているこれらの症状は,未だ原因が不明で,ただ漠然とストレスからくるといわれ,薬物等による対症療法が行なわれているのが現状です。しかし,その一部でも,手術による原因治療の可能性がでてきたことは,外科の歴史にとって画期的なことであると,私などは思うのです。
※全てのタイプの眼瞼下垂症に当てはまるものではありません。また,全ての身体症状,精神症状の主要な原因が瞼の異常ということではありません。
※眼瞼下垂症の診療は予約制です。インフォメーションで詳細をご確認の上お電話ください。
※眼瞼下垂症の手術について,専門的な内容をもっと詳しく知りたい方は関連サイトの「眼瞼下垂症の手術のために」をご参照ください。
※参考書籍:「まぶたで健康革命―下がりまぶたを治すと体の不調が良くなる!? 」(小学館)信州大学医学部形成外科学講座教授 松尾清 著